癌との闘い-26(57歳からの新しい人生のスタート)

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本『癌との闘い』の連載は、2008年8月から2010年12月までの二年間に亘る闘病記です。

以下は4月4日投稿の癌との闘い‐25のつづきです。


私はクリスチャンですが、亡母が敬虔なカトリック信者で物心も付かないうちに幼児洗礼を受けていていました。

教会には小さい頃イヤイヤ母親に連れられて行きました。当時ラテン語で行われていた厳粛なミサは全く理解できず、帰国してからは高校受験を理由に教会から遠ざかっていました。

クリスマスや復活祭の特別のミサ以外は教会に行かないというインチキクリスチャンでした。

しかし、報道番組のホスピスに入っている末期癌患者たちが『今という瞬間』を大切に一生懸命生きている姿を見て心の琴線に触れるものを感じました。

そのホスピスは、キリスト教とは何の関係も無いホスピスでしたが、幼少の頃に教会で暗唱していた祈りの『今と臨終の時を祈りたまえ』という一節を思い描きました。

詰まり、人間にとって確実な事は『今(現在という瞬間)』と『臨終(いつか死を迎える時)』だけであり、それ以外は何も分からないと言うことです。それゆえ、その確実な今と臨終の時を祈って下さいという『祈り』なのです。

過ぎ去った過去及びまだ来ぬ未来を思い悩むのではなく、今というこの瞬間を大切にしなければならないのだと思いました。

それ以来、癌の再発、転移に対する不安、恐怖は軽減して行きました。全く恐くないと言えば嘘になります。今も経過観察が近づくと嫌な気はします。

しかし、もはや再発、転移の恐怖に怯えることはなくなりました。

また、これをきっかけに過去に読んだ多くの本の中に掛かれてあった名言を思い出しました。

『すべてこの世の病には
治す手立てがあるか、なし
手立てがあるなら見つけよう
手立てがないなら忘れよう』

更に

『神よ、われにあたえたまえ
変えられない事を受け入れる心の平静と、
変えられることを変えて行く勇気と、
それらを区別する叡智を。』

自分は考えてみたらとっくに死んでいてもおかしくない三大疾患の内二つも経験している。それにもかかわらず、まだ命がある。これは、自分の意思とは別に何か大きな力によって生かされているのではないかと思いました。

そして、現在は

『天に召されるまで今という瞬間を一生懸命生きていく』

と考えています。

会社を整理するに際して、会社の最高責任者として社員、国内外の取引先、金融機関に対して可能な限りの誠意を示したかったので、結果的には57歳になる直前にそれまで築いてきたものの全てを失うことになりました。

しかし、命がある限り自分の出来る事を世の為にすることが自分に残された宿命ではないかと思えるようになりました。

その一つは『病気や経済的な理由で、自らの命を絶っていく人達に対して、私が体験した事を伝える事』ではないかと考えました。

2010年の8月で癌が発見されてから丁度二年で、この二年間は癌が再発、転移する可能性が最大限に高い期間だと言われていました。

しかし、幸いな事に二年目の節目で行ったPET-CTの全身の癌の検査で、癌の再発、転移は確認されませんでした。

身体的な症状は引き続きいろいろなところに出ています。

眩暈、立ち眩みも以前ほどでは無くなりましたが、普通の人と比べたらかなり強いと思います。

左耳から左首にかけての感覚は右側に比べると鈍く、触られても何かの上から触られているような感覚です。また、左腕も頭の上に真っ直ぐ伸ばせるようにはなりましたが、右腕とは異なり腕が耳につきません。

肺の違和感、胃の痛みなども定期的に覚えます。

そして、何よりも味覚はまだ塩辛い、甘い、酸っぱい、苦いと大きく分けた味の違いは分かりますが、デリケートな味は分かりません。

また、唾液腺を一本摘出しているので、唾液分泌量が少なく、食べ物を飲み込む事に苦労しますし、定期的に口の中を湿らせて於かないと口の中がカラカラになり、呂律が回らなくなるので常にペットボトルの水を持ち歩いています。

美味しいものを食べることが人生の楽しみの一つであった私にとっては、ものの味が分からないことは想像以上に寂しいことです。

昔行きつけにしていた好きな食べ物屋には行かなくなりました。感じる味が余りにも異なり悲しくなるからです。

そういう意味では健常者と比べるといろいろな面でハンディキャップを負っています。

そして、癌の再発、転移の最大リスク期間の二年間は無事クリアしたものの、因みに、私は後三年間の経過観察が残っています。ですから、厳密に言えばまだ闘病生活の身と言っても過言では無いでしょう。

しかし、絶望のどん底から這い上がるためには、

『待ちの姿勢から新たな人生を切り開いていくという積極的な姿勢に切り替えなければならない』

と決心しました。


つづく

都倉 亮 について

1953年生まれ。幼少の頃11年ドイツで過ごし、アメリカンスクールに学ぶ。慶大卒後三井物産に13年勤務。その後会社経営を経て現在執筆を中心に活動。日本の素晴らしい面、世界基準に変えねばならない面を長年の海外生活で培った目で発信して行きたいと思います。
カテゴリー: 癌との闘い タグ: パーマリンク

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