癌との闘い-25(長い暗いトンネルからの脱出)

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本『癌との闘い』の連載は、2008年8月から2010年12月までの二年間に亘る闘病記です。

以下は3月28日投稿の癌との闘い‐24のつづきです。


2010年8月で癌が発見されてから二年目を迎えようとしていました。

癌の発見からの二年間は長いようであっと言う間に過ぎたような気もします。しかしこの二年間で経験した事は余りにも多く過酷なことの連続でした。

健康面では中咽頭癌が左首リンパ節に転移したレベル4の進行癌の状態での発見。

二ヶ月間に亘る放射線/抗癌剤の併用治療。左首リンパ節の摘出手術。過観察中の身体の他の部位への転移の疑い。

眩暈、立ち眩み、味覚の喪失、唾液分泌量の減少などの後遺症。そして常に脳裏を離れない癌の再発、転移の恐怖感から来る精神的な落ち込みに翻弄される日々でした。

社業は私が入院中に100年に一度と言われる不況の中で業績が悪化。

退院後は闘病生活と平行して会社の立て直しに全社一丸となって取り組みました。

しかし、私の余命が長くないとということを確信した時、社員及び関係者にに対して一番厚く報いられる時期に会社を整理すべきだと決断し、最終的に2010年5月10日に清算することになりました。

健康も会社も個人的な蓄えも全てを失った日々が目前に現れたのです。

独立後、癌が発見されるまでの20年間、毎朝5時に起床して6時からトレーニングを行い出社するという生活を続け、タバコは吸わず、酒も付き合い程度で食事には人一倍気を遣っていました。

会社も『北欧のモダンカジュアル家具を、北欧のオリジナリティーを損なうことなく日本の居住空間、日本人のライフスタイルに合うようにデザイン、生産、輸入、販売』を手掛ける会社として成長し、販路を従来の販売店からインターネット経由の直接販売に比重を移す過程においての出来事でした。

『自分の人生の全ては終った』とつくづく思いました。

テレビで報道される自殺関連のニュースでは、日本に於いては年間の自殺者が10年以上も30,000人を下らないという痛ましい数字が公表されています。

しかも最も多いのが50代、60代と私と同年代の人達なのです。更にその最大の理由が健康上と経済的な理由だという調査結果が出ています。

以前は、テレビで報道される大病による、また事業の不振などによる経済的な理由で心身ともに追い詰められていき『自殺する』人間が増え続けていると言うニュースは、他人事のように聞いていました。

しかし、この二年間を経て『そういう人達の追い込まれた精神状況』が手に取るように分かり、切実な気持ちで食い入るように見るようになりました。


自殺者の健康上の理由も癌、脳疾患、心臓疾患がトップスリーを占めているとの調査結果です。また、経済的な理由も会社の倒産、リストラなどの失職によることが大きな理由となっています。

年齢も50代から60代と私と同世代の人達が中心です。


ある日、テレビで病気を苦にして自殺した人の家族が闘病生活を語る報道番組を放送していました。

その番組の自殺した人やご家族の気持ちは痛いほど良く分かり、見ていて自然と涙が出ました。

その自殺した人はやはり癌の手術を受け、それをきっかけに長年勤務していた会社を辞めて治療に専念していたそうです。

しかし、癌の再発、転移及び先の見えない将来の生活の不安を苦にして精神的に追い込まれ『自殺』という道を選んだのです。

また、別の報道番組ではホスピスに入っている余命幾ばくかの癌患者の老人が


『今こうやって生きていられる事が最高の幸せです』


と言っていました。

この二つの違う番組を見て考えさせられました。

同じ大病をしても、一人は『自殺という道』を選び、もう一人は『今生きていられる事が幸せ』だと言っているのです。

ふと自分の事を振り返ってみました。

『自分は健康上の理由の癌、脳疾患、心臓疾患の三大疾患の内、くも膜下出血、癌の二つの疾患を経験した。また、経済的理由の大きな原因となっている会社の清算も経験した。自分ほど不幸な人間はいないとまで思い詰めていた』、

『しかし、本当の不幸とはなんだろう?また、本当の幸福とはなんだろう?』、

『自分は変えられない過去が変わることを願っているのではないだろうか?そしてまだ到来しない未来に対して目を背けているのではないだろうか?』

と。

そして、つくづく思いました。

『今こうやって何か大きな力で生かさせて貰っていること自体が幸福なのではないだろうか?』

と。

それは取りも直さず、自分に与えられた現実を受け入れると言う事が幸福への第一歩なのではないかと言うことでした。


つづく

都倉 亮 について

1953年生まれ。幼少の頃11年ドイツで過ごし、アメリカンスクールに学ぶ。慶大卒後三井物産に13年勤務。その後会社経営を経て現在執筆を中心に活動。日本の素晴らしい面、世界基準に変えねばならない面を長年の海外生活で培った目で発信して行きたいと思います。
カテゴリー: 癌との闘い タグ: パーマリンク

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