癌との闘い-12(日本の医療体制の現実)

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しかし、その後の経過観察の過程で再発、転移が疑われ多くの医局が関与して来てからは話は別でした。

現在の日本の医療体制に対して大きな疑問を抱かざるを得ませんでした。

それは、それぞれの医局がそれぞれの立場で、『人間の身体を全体としてではなく、細分化して部分、部分を個別に診ることに特化する』医療体制です。

この現在の医療体制が、患者にとってどれ程大変かを、私が辿ってきた二年間の日々を振り返って率直な意見を述べたいと思います。

先ず、二年の間、私は小児科と産婦人科以外の医局は殆ど診察を受けたと言っています。

多少オーバーかもしれませんが、身体の部位を大きく分ければ当たらずしも遠からずだと思います。

癌の再発、転移の疑いが持たれて精密検査を行った身体の部位は、毎月経過観察で診察を受けている中咽頭と左首リンパ節以外にも、脳、肺、胃、腸、前立腺、骨髄、心臓などほぼ全身でした。

どういう経過を辿ってきたかを更に具体的な例を上げて説明します。

ある時、肺に痛みを感じ息苦しく感じる日々が続きました。

経過観察の時にその肺に違和感を覚えた事を主治医に説明すると、院内紹介で呼吸器内科の受診予約がされます。

予約日に呼吸器内科を受診すると、そこでレントゲンを始めとする肺の検査が一から行われ癌の転移があるかどうかがチェックされます。

結果がでるまでは2-3週間かかり、その間はいろいろな悪いことまたは最悪な結果を想像する日々を過ごす事になります。

幸いにも検査結果で転移が無いと分かると、一応検査結果データはコンピューターに打ち込まれます。

しかし、主治医に相談すること事無く、Y病院と提携している自宅の最寄りの専門開業医に紹介され、そこでフォローアップするように指導を受けます。

Y病院からの紹介状を携えてそこで一からのフォローアップ検査が行われるのです。

肺の違和感に関しては、中咽頭癌が左リンパ節に転移していた時点で、インターネットでいろいろ調べた結果、肺にも転移しやすいという情報を得ていました。

それゆえ、特に神経質になっていました。

ちょっと咳込んだり、息苦しかったり、肺に違和感を覚えると、『癌が肺に転移したのではないか?』という不安感に襲われました。

そして、Y病院の呼吸器内科の『転移が無いという診断』が間違っていたのではないかという疑問も頭から離れませんでした。

しかし、Y病院から紹介された開業医は最初から『癌の転移ではない』という前提で診察をしているのです。

私が幾ら

『癌の転移を見落としている事は無いか?』、『再検査の必要はないか?』

と不安な気持ちをぶつけて、

『この状態が続くようでしたら再検査をして貰えますか?』

と聞いても

『再検査をご希望でしたら設備の整っているY病院でやって貰って下さい』

と、自分のところは癌のフォローアップとは関係ないとでも言わんばかりの回答でした。

それは、癌の転移に怯えている患者の心情を全く察していないばかりか、患者の症状に対してまるで関心が無いと思わせるような通り一遍の血の通っていない言葉でした。

私の場合、最初に中咽頭癌が左リンパ節に転移している状態で発見されたときも、最寄りの開業医での最初の診断は『筋肉の内出血』ということでした。

それゆえ、診察にはミスが付きものという考えが頭から離れませんでした。

医師の側から見れば『神経質になりすぎている』と映ったのかも知れません。しかし、『癌の再発、転移に怯えている患者の心境』と言うのは程度の差はあれ『神経過敏』な状態だと思います。

それを、和らげる手助けをすることもフォローアップする医師の大きな役割なのでは無いでしょうか?

背中に異常な痛みが出たときは、院内の整形外科を受診し骨髄に転移があるかどうかの精密検査がやはり一から行われました。

同様に、結果が出るまでの数週間は肉体的な苦痛に加え精神衛生の悪い日々を送る事となります。精密検査の結果転移が無いと分かると、背中の痛みという症状があるにも関わらず、検査結果データはコンピューターに打ち込まれます。

主治医もオンライン上で見る事はできますが、やはり主治医とは相談無く最寄りの提携先整形外科開業医を紹介されます。そして、そこでフォローアップして貰うように指示されます。

私の場合、経過観察も3ヶ月目に入った頃からほぼ毎月、身体のいろいろな部位に転移が疑われる様になりました。

そのたびに院内でその部位の専門医局で一からの検査を行い、転移が無いと判明すると、そこの医局から病院の提携先専門開業医に紹介されるということが続きました。

この方法は、単純な病気だと病院側からすると合理的な方法なのでしょう。

しかし、全ての病気を同じ様に扱うということは、極めて効率が悪いだけではなく患者の精神衛生に悪い方法です。

ある時、余りにも毎月のように同じことが繰り返されるので、検査を受けた医局の医師に

『精密検査の結果、癌の転移が無かった事は喜ばしい事ですが、実際に肉体的な症状があるわけです。それを転移が無いということで提携先の専門開業医にフォローアップさせるというのはおかしいのではないですか?大病院で原因が分からない事を最寄りの開業医で分かるのでしょうか?』

と言いましたが、

『おっしゃっていることは分かりますが、都倉さんの場合は癌の転移もしくは手術を要する状態で無い限り当病院での継続的な診察はしないことになっています。これは行政指導で、どうしようも無いのです』

という説明でした。

その後、他の医局に対しても同様の意見を言ってきましたが、帰ってくる答は異口同音に同じような回答でした。

つづく

都倉 亮 について

1953年生まれ。幼少の頃11年ドイツで過ごし、アメリカンスクールに学ぶ。慶大卒後三井物産に13年勤務。その後会社経営を経て現在執筆を中心に活動。日本の素晴らしい面、世界基準に変えねばならない面を長年の海外生活で培った目で発信して行きたいと思います。
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癌との闘い-12(日本の医療体制の現実) への2件のフィードバック

  1. 穴澤 百合子 のコメント:
    都倉さん、私は都倉さんが受けた事が無い、産婦人科と小児科に20年ほど通っていました。
    1人目~6人目まで12年間産婦人科の日進月歩を身を持って体験してきました。
    1人目の時は当たり前の薬の投薬が5人目の時は「同意書」が必要だったり・・・4人目の時の投薬が6人目の時は「胎児に悪影響が出るので、今は使いません」だったり・・・4人目は少し障害がありましたし、歯にも影響が出ました。
    去年の常識は今年の非常識・・・現場の医師が良かれと思ってした処置でも、後からそれは良くない処置だと判明する事もあるのです。
    自分の対応が間違っていることもあるのだから、同じ人間として時には患者に敬意を示す事も必要だと思うのです。
    「治してやってるんだ」「治療法に黙って従え」・・・良くない結果になっても「最善を尽くした」「あの時の標準治療です」と逃げる。
    医師とはいえ、人間のする事に100%を求めないが・・・「あの時の治療は間違ってました。」と非を認めて反省しなければ、同じ過ちを繰り返すだけだと・・・
    それも「村社会」の影響なのでしょうか?
    都倉さんの癌との闘いに直接関係ない内容ですが・・・医療体制についてコメントさせて頂きました。
    • 都倉 亮 のコメント:
      コメント有り難うございます。

      私はたまたま日本の三大死亡原因である癌、脳疾患、心臓病のうちの二つを経験しました。

      34歳の時くも幕下出血、55歳の時に中咽頭癌が左首リンパ節に転移したレベル4の進行癌、58歳の今左鎖骨上リンパ切に転移した癌です。

      その時々の私の回復過程の医師の言動を 『有り得ない』 という表題で一両日中にブログでアップします。

      穴澤さんの仰るように過ちとか自分の医学の知識で分からないことは素直に認める姿勢がなければ何の進歩も生まれませんよね。

      医者を含む科学者の原点は本来 『疑問に対する探究心』 であるはずです。

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