別れ際の『初めまして』

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私は父の仕事の関係で幼少の頃から14歳になるまで11年間ドイツで過ごしました。

ドイツではアメリカンスクールに通学したので、日本語、英語、ドイツ語を同時に学ぶことが出来ました。 学校では英語、学校以外の友達とはドイツ語、両親とは日本語という感じでした。

日本に帰国してからは、日本社会の閉鎖性にかなり戸惑いを覚えた部分はありますが、三ヶ国語を自由に扱えると言う恩恵にも浴することが出来ました。

その後社会人になり、三井物産時代にベネズエラに二年間赴任してスペイン語を習得し、現在は四ヶ国語を理解することが出来ますが、常日頃思うことは 


言葉と言うもの は時(time)、所(place)、場合(occasion)によって使う表現を変えずに、右から左に直訳すると とんでもない意味違いになってしまう ことがあるということです。

米国に出張したときに、日本語を勉強している人間が日本語で会話をしたいと言うので、食事をしながら日本語で会話をしました。

たどたどしい日本語でしたが、一生懸命に勉強していることが伺えとても好感が持てました。

食事が終り、そろそろ帰ろうという時に彼が私に一言

『初めまして』

と言いました。

一瞬 

『エッ?』

と思いましたが、酔っているのだと思い聞き流していましたが、再度

『初めまして』

と言うので何が言いたいのかを訪ねたところ、彼は英語で言う

”Nice to meet you.(御機嫌よう)”

という事を言いたかったのです。

『ははーん。』

思わずうなりました。

なぜかと言うと、直訳すると彼の言っていた事は正しいのです。

英語の ”Nice to meet you.” という表現は、別れ際に挨拶で言う時は

『楽しかったです。』 『お目にかかれて良かったです。』 『御機嫌よう。』

と言う意味で使いますが、初めて出会ったときは

『初めまして。』

と言う意味で使うのです。

恐らく彼は日本人に

”Nice to meet you.”

は日本語で何と言うか質問した際、日本人が初対面の時の挨拶と思い

『初めまして』

と教えたのでしょう。

外国人が一生懸命日本語を勉強した過程で間違えて覚えた日本語の表現は、ご愛嬌と言えばご愛嬌でしたが、将来の事を考えて 別れ際に 
”Nice to meet you.” と言いたい場合は 『御機嫌よう』 と言うのが正しいとアドバイスをしました。

それからは、彼は別れ際には 『御機嫌よう』 を連発していました・・・(笑)

厳密に言うと 『初めまして』 も初対面の時だけの出会いの挨拶ですし、 日本で日々使っている 『行って来ます』 『ただいま』 『頂きます』 『ご馳走様』  などの言葉も英語に直訳してしっくり行く言葉は無いのです。

それ故、外国人とのコミュニケーションを外国語で図る場合は、時(time)、所(place)、場合(occasion)によって使う表現を変えないととんでもない事になってしまうのです。

私は幼少の頃ドイツで、日本の国会議員団が訪独した際、パーティーの席上で議員の団長が挨拶の冒頭だけを英語で行ったスピーチがいまだに鮮明な記憶として残っています。

議員の団長は

『ご列席の皆様方。本日は愚妻共々・・・』 の 愚妻 の部分を My Foolish Wife と訳したのです。

周りの外国人の雰囲気が 一瞬凍りついた事 を当人は全く気付いていませんでしたが、愚妻というのは 日本独特の表現で自分の妻を謙遜して人に言う時に使う表現 ですが、その様な表現自体が英語には無いのです。

それを正式な場で”My foolish wife. 『私のバカな妻』” と直訳したのですから会場の空気は凍りつきます・・・(笑)

一国を代表して海外で相手方と意思の疎通を図るときには、確認と言う意味ではプロの通訳の助けを借りても、少なくとも 世界の共通語である英語 で直接自らの意思を伝え、相手の言っている事を理解して欲しいものです。





都倉 亮 について

1953年生まれ。幼少の頃11年ドイツで過ごし、アメリカンスクールに学ぶ。慶大卒後三井物産に13年勤務。その後会社経営を経て現在執筆を中心に活動。日本の素晴らしい面、世界基準に変えねばならない面を長年の海外生活で培った目で発信して行きたいと思います。
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別れ際の『初めまして』 への4件のフィードバック

  1. 大間知 総一郎 のコメント:
    昔、娘の高校の英語の(ややくだけた)宿題で、「出来ちゃった婚」を英訳せよとの事。
    答えは、militariy marriage。前の会社に、バイリンガルの女性が居たので、意味を尋ねると、
    しばらく考えて「(子供が出来ると)きっと軍隊式に強制結婚させるからではないか?」との事。
    本当ですか?? get marriedと訳す方が一般的のようですが。
    その娘も今年結婚しましたが、女子大→OL→専門学校(今)&主婦→来年就職と、当分孫の
    顔は見れそうにありません・・・
  2. 都倉 亮 のコメント:
    できちゃった婚 は別に日本ばかりではなく世界中であるはずですが、日本以外では 固有名詞 として使われているのは聞いたことありませんね・・・笑。

    Military Marriage も意味を聞けば分かりますが、そうじゃなければ 言葉 からだけでは分かりませんね。

    ショットガン・マリッジ(Shotgun Marriage) とも言うそうです。意味するところは、愛する娘の妊娠を知った父親が男に「責任とって結婚しろ」とショットガン(銃)を突きつけて脅迫して結婚を迫ったことに由来するそうですが、これまた解説を聞かねば分かりませんよね・・・笑。

    いずれにせよ、外人にそのまま言って皆に理解されるとは思いません。

    ただいま、いただきます などのように直接英語にしようとしても対応する 言葉 が無い場合は、私は無理やりそれに対応する単語を見つけることなく、 時(time)、所(place)、場合(occasion) に応じた言葉を選ぶようにしています。

    例えば ただいま だと ”Got back” ”I’m back” いただきます だと ”Let’s eat” ”Let’s start” で しょうか?

    私ならできちゃった婚 も無理やりに ある単語 に置き換えずに Marriage-due to-pregnancy(女性の妊娠に伴う結婚) と訳します。
  3. 大間知 総一郎 のコメント:
    成るほど、非常に分かりやすい解説ですね。ちなみに、私のMilitariyは、スペルが間違っていましたね。失礼しました。
    今日は、眼科検診の日なので、【乱視】がどの位進んでいるのか診てもらってきます・・・(笑)
    • 都倉 亮 のコメント:
      語学の達人に共通しているのは単語力より 時(time)、所(place)、場合(occasion) によって使い分ける 表現力 だと思います。

      受験英語の 単語丸暗記方式 ではなかなか 時(time)、所(place)、場合(occasion) に合わせた表現力は養えないと思います。

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